ヴ(ォイ)ログ

音楽、機材、サカナクションの話

機材の話:サカナクション岩寺基晴の使用エフェクターを考える

 こんにちは。また書きたいネタができたので書いてみます。

 このブログでもTwitterでも事あるごとに言ってますが、僕は大のサカナクションファンであります。エフェクターを買い集めているのも、サカナクション(とレディオヘッド)のコピーをしたいからだと言ってもいいです。

 あんな人気バンドにも関わらず個々のプレイヤーのフォロワーが他のバンドほど一般に見当たらないなあ、と感じていまして(ベースの草刈さんのプレイの評価は非常に高いですが)。「誰々の機材情報!」みたいなサイトも羅列してるだけでどう使っているのか説明しているところはほとんどないですし、1番熱心に追いかけてきたギターのモッチこと岩寺基晴氏の使ってきたエフェクターについてできる範囲で詳しく書いてみようとぼくは思いました(作文)。

ということで、僕が確認してきた範囲で使用していたエフェクターを役割ごとに挙げていきます。リアルタイムで追い始めたのは2012年からですし、初期に関しては資料も少なくほとんど言及できていないことを先にお詫びしておきます。

 

今回のお品書き

 ①歪み系

 ・TS系枠

 ・ケンタ系枠

 ・ハイゲイン枠

ダイナミクス系/アンプ

モジュレーション/ピッチ系

④空間系

⑤システムの全体像

⑥自分がコピーする際のシステム

⑦おまけ

 

①歪み

 基本的にアンプはクリーン、歪みはペダルで作っています。歪みに関しては大きく3つの枠に分けられます。

《TS系枠》

T-REX ALBERTA

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・Fulltone Full-Drive2 MOSFET

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 初の武道館公演まではALBERTAを、その後のAL「DocumentaLy」レコーディング以来現在に至るまでFull-Drive2を使用しています。(2014年のSAKANATRIBEツアーでは10周年記念の赤いモデルを使用していることを確認しています)Full-Driveのゲインは比較的高めで、ALBERTAの設定は確認できませんでしたがオンにした時の音を聴く限りFull-Driveと同程度には上げていそうです。岩寺氏のドライブサウンドの基本形と言える形です。

《ケンタ系枠》

・MAXON OD-820

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・KLON KTR

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 初武道館の際にはOD-820がボードに設置されています(OD-820がケンタ系かどうかは分かれるところですがご容赦ください)。その後DocumentaLy期以降しばらくボードには姿を見せなくなりますが、少なくとも2018年のベストアルバムツアーまでにはKTRが、そして2019年のAL「834.194」ツアーではその両方が使用されています。TS枠に比べれば踏んでいる頻度は低い印象ですが、復活したことを踏まえるとボードから外れていた時期もレコーディングでは使われていたと考えるのが自然ではないでしょうか。こちらも比較的ゲインは高めの設定です。

《ハイゲイン枠》

・BOSS DS-1 WEED Mod Double SW

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・BOSS BD-2

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・ROGER MAYER Page 1 Classic

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 DoucumentaLy期にケンタ系に取って代わるように登場し、少なくともSakanaction期まではWeed DS-1が使用されていました。SAKANATRIBEツアーではBD-2が使用され、その後移行した時期は定かではありませんが少なくともベストツアーの際にはPageに変わっています。DS-1は僕も実際に手に入れて使っていますが、これ1つでもかなり近い雰囲気が出ると思います。少しトレブルの立ったドライブサウンドにハマりますね。

 

 岩寺氏の歪みの音作りにおいて、次項の内容も重要な要素となってきますのでぜひ合わせてご覧ください。

 

ダイナミクス系/アンプ

ダイナミクス系》

・BOSS GE-10

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・Free The Tone PA-1QG

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・BOSS CS-3

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・CAE GVGA-2 Rev.3

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・Ernie Ball VP

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KORG XVP-10

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 ラックシステムを導入した2012年以降常にGE-10をシステムに組み込んでいます。ほんの少しローをカットし、2~4k辺りにピークを作りつつそれ以上のハイは割とハッキリカットしているようです。また、AL「kikUUiki」の表参道26時は岩寺氏がGE-10でギターの音をバキバキに作り込んできたことがきっかけで雰囲気が固まったという話や、834.194の際のエンジニア・浦本さんのインタビューで「モッチの音作りがバッチリだったので、ミックスでEQをかけないことがほとんどでした」との発言もあるようにレコーディングでも重宝しているようです。ベストツアー前後の時期からFTTのEQも加わっています。

 コンプに関しては、2014年頃からCS-3を導入しています。それ以前にも、BOSSのマルチGT-10でコンプを使用していることを確認しています。

 そして彼の音作りの大きなポイントがGVGA-2です。ラック式のボリュームコントローラーでシステムを大きく括るように配線されており、ギターからの信号とエフェクターを通過した後の信号を個別にコントロールできます。クリーンで音量をガッツリ出したい時にアウトをブーストしたり、歪みペダルに送るギターからの信号を下げることで歪みの量を抑えたりと、フレーズ単位でパッチを組んで使っているようです。歪みペダルのゲインが総じて高めのセッティングなのはここと大きく関係していると思われます。ですから、ボードの写真が掲載されてもただツマミの位置を真似るだけではなかなか音がハマらないかもしれません。

《アンプ》

 三日月サンセットのMVや初期のライブにおいてはJCを使用しています。その後DocumentaLyツアーまではVOXのAC30を使用していましたが、ラックシステムの導入と同時にアンプも一新。ディーゼルのヘッド+オレンジのキャビネットの組み合わせに移行します。ディーゼルは基本的にクリーンチャンネルを使用し、ペダルで得られる以上の激しい歪みが欲しいときだけドライブチャンネルと合わせていたそうです。10周年ツアーの頃までそのシステムが続いていましたが、2018年頃からAC30に回帰し、現在に至るまで使用しています。AC30で歪ませることがあるのかは不明です。

《2020 10/13追記》

 ⑤でも少し触れていますが、おそらくAC30に回帰した頃からDV MarkのMultiampを使用しているようです。ケンパーやフラクタルのような、様々なアンプのサウンドを実現する機材ですね。ファミコンに似たカラーリングがモッチの気を惹いたのかな、なんて想像もしてしまいますが。笑

 どの程度Mutiampを使っているのかはなんとも分からないのですが、AC30をスピーカー部のみ使っているとするならば「オレンジの方がレンジも広くてフラットな音になるのでは?」という疑問が立ち上がってきます(ディーゼル+オレンジに移行した際に「AC30だとパキッとしすぎてしまうのでレンジも広く暖かいクリーンを求めて変えた、むしろ出過ぎてしまって戸惑ったくらい」「だけど出ているところは抑えればいいだけなので楽になりました」との発言もありますし)。これに答えを出すのはなかなか難しいですが、私の仮説は

・Multiampで様々な音を作れるようになった反面一貫性が欠けてしまい、AC30のキャビネットと合わせることで音に一貫したキャラクターを与えて”同じ人の音だ”という印象を担保した

・やっぱりコンボアンプの音が好みだった(AC30への不満はプリアンプ部に関してのものだった)

・ギターのレンジは狭くても構わないと思った

などです。いつかどこかの記事に解説が載ることを願っています。

 

モジュレーション/ピッチ系

モジュレーション》

・Electro Harmonix Small Clone

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Moog Moogerfooger MF-103 12 Stage Phaser

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・Strymon Mobius

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・Eventide H9

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 長らく(sakanaction期まで)Small CloneとMF-103を使用していました。スモールクローンは古臭さを演出したい場面で使っており、MF-103はコード弾きだけでなくクリーンの単音フレーズ(三日月サンセットなど)でも使われ、モッチサウンドの雰囲気を演出する重要な要素です。6ステージのモードで使用しているようです。SAKANATRIBE期にストライモンを導入し、いつ頃からか定かではありませんがH9に移行しています。H9はマルチなので他の役割も持っているかもしれませんが、メビウスとの交代ですから主にモジュレーション用と見ていいでしょう。

《ピッチ系》

・BOSS PS-5

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・Electro Harmonix Pitch Fork

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 初期においてはPS-5を使っていましたが、GT-10を導入したタイミング(2008年以降)でボードから外れたためGT-10でピッチシフターも管理していたと考えられます。現在はピッチフォークを3台使い分けており、①オクターブ下を重ねる②オクターブ上を重ねる③オクターブ上を重ねる(ウェット大きめ)の用途で使っているようです。アルペジオなどで多用されており、ワーミーよりも揺らぎの少ないピッチシフトが得られるこの2機種は岩寺サウンドの肝と言えます。

 【2020 5/4 追記】

 すっかり失念していました。ライトダンスでは+5半音のモードも使用しています。サビ裏のギター、オリエンタルなムードがムンムンの名フレーズですよね…

 

④空間系

・BOSS DD-20

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・BOSS GT-10

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・TC Electronic D-Two

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・Strymon Time Line

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・TC Electronic M-One XL

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・Strymon Big Sky

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 ディレイはサカナクションのギターサウンドの大きな特徴です。僕はジ・エッジではなく岩寺基晴から付点8分のディレイを学びました…。GT-10でディレイタイムを曲ごとにプリセットしており、1曲で3種類使うこともあるそうです。また岩寺氏の特徴としてBOSSのディレイのWARP機能を多用することが上げられますが(ルーキーの間奏など)、Time Line導入後はエクスプレッションペダルでフィードバックをコントロールすることで同じ効果を表現しているようです。D-Twoはラック導入と同時に組み込まれましたが、「現在活用法を試行錯誤中」とのコメントがあった後目立った活用法を見出せなかったようで現在は使われていません。

 バーブはラックシステムを導入するまで入っていなかったのですが、おそらくこれもGT-10でまかなっていたと考えられます。ラックシステムではBig Sky導入以前はラックマルチ、M-Oneでリバーブサウンドを作っていたとのことです。

《2020 10/13追記》

・BOSS RE-20

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 他の方の昔のブログに記載がありましたし、そういえばDocumentaLyの特典DVDでの「ドキュメント」のスタジオライブ映像でも使っていたのをすっかり忘れていました…そのブログは2009年のライブにて恐らくRE-20をリバーブとして使っているのではないか、と書いていらっしゃいます。いくつか間違いもありますが、私の手の届かなかった時期についての記事ですので、大変ありがたいです。下がそのリンクですので、是非合わせてご覧ください。

補足説明、及び蛇足記 : サカナクションのギターエフェクトサウンド

 

⑤システムの全体像

 大きく分けて①ペダルボード+AC30期②ラックシステム+ディーゼルヘッド+オレンジキャビ期③ラックシステム+AC30期に分けられます。ラックではFractalのAxe用フットコントローラー、MFC-101を応用してエフェクトの接続やパッチ切り替え、エクスプレッションペダルの適用先などを管理しているとのことです。「歪み→モジュレーション→ピッチ系→空間系」の順番は①期から不変だと思われますが、EQやコンプなどの位置についてはハッキリしません…また近年はDV MARKのMultiampも使用しているようで、単にAC30に回帰!とも言えないかもしれません。

《2020 5/9追記》

②期と③期の間(おそらく2016〜2017年頃)にディーゼルヘッド+オレンジではないキャビネットの組み合わせで演奏しているのを確認しました。パッと見てメーカーが分からなかったのでわかり次第また追記します。

 

⑥自分がコピーする際のシステム

 僕がサカナクションのコピーをする時のシステムです。

 Zoom MS-50G

→Electro Harmonix Soul Food

→Guyatone HDm5

→Weed DS-1

→BOSS PS-5

→Truetone H2O

→BOSS DD-500

→BOSS RV-6

 MS-50Gは主にコンプ、EQとして使っています。Soul FoodとHDm5でゲイン量の使い分けをしています。Soul Foodはクランチ程度、HDm5もクセのない歪みが得られるためSoul foodと重ねることでケンタ系のテイストを保ちつつしっかりと歪んだバッキングサウンドを得ています。ジリジリとしたハイゲインサウンドが欲しいときはDS-1を踏んでいます。PS-5からDD-500まではまとめてループボックスに括り、一気にオンオフできるようにしています。個々のペダルの使い道は上述の通りです。

 モジュレーション、空間系は定番と言われるような汎用性のあるものなら比較的なんでも代用が効くと思います。ダイナミクス系は思い切って省いても僕達アマチュアのコピバン程度なら問題ないのではないでしょうか。

 

⑦おまけ

 これはコピーの参考にはなりませんが、最後に他の場面でのシステムについても少し。

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 ライブでのラップトップパフォーマンス中にも岩寺氏はギターを弾くことがありますが、その際のセットがこちらです(2012年のツアー時のものですので、現在とは異なっている可能性が高いですがあしからず)。主にロングトーンの途中でエフェクターで色をつけたり、ディレイで飛ばした音をツマミで変化させたりしているようです。

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 また、2014年頃から使用している富ヶ谷のプライベートスタジオ(全てのパートをラインで出力し、ヘッドホンをつけてプレイするセッション用の部屋)でのギターシスタムがこちらです。エフェクターはSunset、Mobius、Time Line、Big SkyとStrymonで固め、アンプはKemperを使用しているようです。

 

 以上、僕なりにまとめてみました。参考にしてくださる方がいらっしゃれば幸いです。ではまた。

《2020 10/13追記》

 なんと山口一郎氏から反応をいただいてしまいました。岩寺氏本人も目を通してくださったようで嬉しいやら恐ろしいやら…更にサカナクションの楽器テックを務めるモビーディックさんにも反応いただき、「ほぼ正解でビックリしました」とのコメントがありました。本当に機材厨冥利につきます、ありがとうございます。

 これからも気合い入れて書いていきますので、よろしくお願いいたします。