ヴ(ォイ)ログ

音楽、機材、サカナクションの話

機材の話: 部屋とHX Effectsとわたし

 こんにちは。こんばんは。おはようございます。

 今年の夏はできる範囲で意識して更新頻度を上げていきたいと思っています。ギター関連の機材整理の波動を感じているのでその前に、と…笑

 

 今回のお題はこちら!

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 みんな大好きLine6のマルチエフェクター、HX Effectsです。去年の秋ごろ手に入れてから使用していて、自分なりの付き合い方がなんとなくわかってきたので書いてみます。「HXファミリーを検討しているがどれを選ぶべきか決めかねている」という方の参考になれば、またHX Effectsを題材にして「コンパクトの代用に限らない存在になりつつある近年のマルチとわたしがどう向き合っているのか」をお伝えできれば幸いです!

 

【今回のお品書き】

①HX Effectsとはどのような機材なのか?

 ・HXファミリーの特徴

 ・Effectsに特別見られる特徴

②コンパクトとマルチ、どのように折り合いをつけるか?

③音作り、どこまでやる?(まとめ)

 

①HX EFFECTSとはどのような機材なのか?

 

・HXファミリーの特徴

 まず、Effectsが位置付けられているHXファミリーについて触れていきましょう。HXファミリーはLine6のフラッグシップ機であるハイエンドマルチ、Helixの下位モデルであるHX Effects、HX Stomp、HX Stomp XLの3機種を指します。これらに共通する、Helixから流れる「HXファミリーの特徴」と言えるのが以下に挙げるようなものです。

 

≪Helixと共通するDSPチップによる高品質なモデリング

 HXファミリー最大の売りがこちらではないでしょうか?出力されるサウンドではなく「回路の振る舞い」にフォーカスしたモデリングにより、モデリング元の代名詞的な特定のサウンドに限定しない使い方を実現しています。また、開発者によれば「例えばチューブスクリーマーなら、"ヴィンテージTS-808の最大公約数"的なサウンドではなく、用意したリファレンス機の中で開発チームが最もいいと判断した個体のサウンドを徹底的に追求した」とのことで、そこもHXモデリングの特徴と言えるでしょう。もちろん、特定のモデルを意識しないLine6オリジナルのサウンドも非常に面白いものになっており、それらのサウンドがHXファミリーを単なるなんでも屋さんに留めない重要な要素になっていると思っています。

 

≪カラーLCDリングを搭載したフットスイッチ≫

 フットスイッチに割り当てられたエフェクトのカテゴリーをイメージした色でフットスイッチが点灯するので、演奏中の視認性がとても良いです。フットスイッチの色は自分で設定した色に点灯させることもできますし、複数のエフェクトのオン/オフやパラメータの変化をひとつのフットスイッチに割り当てることもできます。また各フットスイッチはパッチ内の接続順に関係なく場所を入れ替えることができるので、自分なりのストレスのない環境を構築することが本当に楽です。

 

≪エフェクトループを含む柔軟なルーティング≫

 機種により同時に使用可能なエフェクト数は変わりますが、それ以外には2つある外部エフェクトループを含めてカテゴリーなどの制限なく自由な接続順でパッチを作成できます。また信号の系統を2つに分けることができ、「複数のエフェクトを通過した信号とクリーンな信号をミックスする」「別々のエフェクトをかけた音をミックスする」「2系統を別端子からパラレルで出力してアンプ2台を切り替えたり同時に鳴らしたりする」などのルーティングが可能です。信号の分け方には「任意のバランスで振り分け」「フットスイッチで2系統を切り替え」「設定したスレッショルドによって信号レベルで振り分け」「指定した周波数を境に切り替え」の4種類があり、アイデア次第で様々なサウンドが実現できます!例えば「2.4kHz以上の信号だけ歪ませて、クリーンなアタック感と倍音感を両立させる」「スレッショルドで振り分け、カッティングのアタック成分にだけリバーブをかける」などが考えられますね。

 ちなみにわたしは、「2系統の信号をそれぞれ別の端子から出力できる」ことを活かして「あるフットスイッチを踏んだ時だけ、アコースティックシミュレーターとルームリバーブを通過した信号がアンプではなくDIから直接PAに行くようにする」パッチを組んで使っています。

 

≪各モデリングのフェイバリット、ユーザーデフォルト機能≫

 各モデルに関して、そのモデルを呼び出した時の初期パラメータを設定することが可能です。「いつもローゲインでブースターとして使っているモデルなのに、いちいち全部12時で読み込まれるのが面倒!」というのって結構マルチあるあるですから、非常に助かっています。またそれとは別に、お気に入りの設定をプールしておけるFAVセクションも用意されています。BOSSのGT-1000などにもある機能で、今後デジタルマルチのスタンダードになっていきそうですね。

 

≪フットスイッチや外部コントローラーの豊富なアサイン機能≫

 上でも少し触れましたが、各フットスイッチにはほとんどのパラメータをアサインでき、複数まとめてコントロールすることができます。また、Tip/Ring信号による外部機材のコントロール(PEDAL/EXT AMP端子からアンプのチャンネル切り替えや、コンパクトペダルのタップテンポやモード切替をHXのフットスイッチから行うことができます)にも対応しています!さらに外部フットスイッチやエクスプレッションペダルを接続してのコントロールも可能です。(EXPペダルに関しては純正でないものは抵抗値や極性によりうまく動作しないことがあるので、注意が必要です)

 

≪スナップショットによる音切れのない音色切り替え≫

 HXファミリーには、パッチとは別に「スナップショット」という機能があります。これ、公式の日本語マニュアルが相当難解なので分量割いて説明したいと思います。(公式のマニュアルもなかなかファニーなので見てみてください、なんなんですかあのタコの例え…笑)

 まず、スナップショットで管理できるものをまとめてみましょう。

・パッチにある各エフェクトのオン/オフ

・各エフェクトのパラメータ

 これに対してスナップショットでは管理できないものは、

・エフェクトの接続順、ルーティング

となっています。後者はパッチで管理します。「パッチ=あるエフェクトボード」「スナップショット=そのボードの状態」と言うとイメージしやすいのではないでしょうか?HXシリーズは「パッチであるシステムを作って、その構造を崩さずに実現できるバリエーションをスナップショットで切り替える」という意識を持つと付き合いやすいのかな、と思います。

 そして一番大事なことが最後になってしまったのですが、スナップショットの利点は「エフェクトモデルの読み込み直しをしないため、一切の音切れがない」ことです!スナップショットをうまく使うことでパッチ数も抑えられますし、HXファミリーの重要な概念のひとつです。

 

その他細々したものをまとめると

・様々な入力ソース、出力先に対応する信号レベル設定

MIDI信号の送受信

プロセッサー回路を通過しないアナログ・バイパス機能

・IRの使用

などでしょうか。総じて「サウンドシステムの中心」という役割が意識されているように感じます。

 

・HX Effectsに特に見られる特長

 ここからは、HXファミリーの中でも特にEffectsが持つ強みについてわたしなりに書いてみます。と言っても、基本的には「筐体が大きいことの利点」に収束するものではあるのですが…笑

 

≪ファミリーの中では優れたDSPパワー≫

 Stomp(XL)に比べてひとつしか多くないのですが、最大9つのエフェクトブロックを使用してパッチを組むことができます。実際使っていると「9でギリギリ足りるな」という感じがあるので、地味に大きな差ではあります。

 

≪2系統の外部エフェクトループ≫

 2系統のセンドリターンを、モノ×2、もしくはステレオ×1のエフェクトループとして使用できます。(Stomp(XL)もY字ケーブルを用いれば2系統/ステレオでの運用が可能です)わたしの場合、最も大きな規模のセットを組む時にはコンパクトで使いたい歪みを括ったループと、モジュレーション・空間系を括ったループを作って使っています。というよりはむしろそのコンパクトたちがメインで、その間に時々欲しくなるエフェクトやEQ、ルーパーなどを挟むためにHXを使っている形ですね。笑

 このエフェクトループの優れているところは、ドライ/ウェットのバランスを調節してブレンダーとしての運用が可能なこと、そしてセンドの出力・リターンの入力レベルをそれぞれ-inf~+6dbの範囲で設定できることだと思っています。後者は、音量が下がってしまうペダルを括って使う際の補正用に使うこともできますし、括った歪みペダルに送る信号のレベルで歪みの量を調節したり、また歪みの量を全く変えずにレベルだけを上下させたりといった積極的な運用も考えられます。サカナクション岩寺基晴氏がラック式のボリュームコントローラーでやっていることに近いですね、詳しくは当ブログ最大のヒット作である岩寺氏のサウンドシステム考察記事(https://actionvoi.hatenablog.com/entry/2020/05/03/180349)をご覧ください。笑

[追記]

 記事をアップした段階では「Stompではモノ2系統のセンドリターンは使用できないようです」と書いたのですが、TwitterにてStompを使用されている方から可能である旨教えていただきましたので、修正しました。(2020-08-08)

 

≪操作性≫

 大きな筐体の一番の恩恵です。8個のフットスイッチに加えてそのうちアサイン可能な6個にLCDディスプレイが合わせて搭載されており、スイッチのカラーリングと合わせて各スイッチの状態を把握しやすくなっています。(各ディスプレイに表示させる文字列も都度カスタマイズ可能です)Stomp XLにはこのディスプレイが無いため、HXファミリーの中で「Helixの操作性」を最もよく実現しているモデルであると言えるのではないでしょうか?設定決め打ち、かつライブでの運用メインであれば余剰とも言える部分ではありますが、鳴らしている最中にササっとパラメータを調節したり、エフェクトを追加したり、コンパクトペダルで組んだボードを触っている時とのギャップが極めて小さい印象です。ざっくりとしたセッションや、アレンジを固める段階の作業で大まかな方向性を決める用途にはこれ一台で完結できる、という快適さ、便利さはなかなかのものです。

 またこれも一応Stomp XLでも可能なものですが、Helixから受け継いだハンズフリー・エディット機能も地味に助かる機能です。多少操作の量は多いものの、フットスイッチの操作だけでパッチ内のすべてのパラメータの調節が可能です。「いざアンサンブルの中で鳴らしたら歪みの量が少し足りなかった/過剰だった」「もう少しレベルを上げたい/下げたい」という程度のものであれば、Aメロが終わる頃には十分アダプトできるはずですよ。一応Stomp XLでも可能、と書いたのはこれは各フットスイッチに対応したディスプレイあってこそのものかな?と感じるためで、その点でEffectsの強みと言っていいと思います。

 

≪Effectsの弱み≫

 反対に、EffectsよりStomp(XL)が優れていると言える点についてです。Effects以外は所有したことがないので、あくまでカタログスペックやレビューを見て軽くまとめる程度にとどめておきますが…

 真っ先に浮かぶのはアンプモデリングの存在です。アンプモデリングが使えないEffectsでは、宅録はコレ一台で完結!とはいかないのが実情ですよね…(というかStomp XLを出したりPod Goを出したり、もはやEffectsにアンプモデリングが搭載されていない意味が分からなくなってきています…Line6はEffectsをどうしたいんでしょうか。笑)

 もうひとつもパッと浮かぶものですが、機能の割に小さくまとまっているとはいえやはりサイズもネックになります。マルチストンプ的な運用にはStomp(XL)が適していますし、よりボードの司令塔的な役割を突きつめたBOSSのMS-3という存在も相まって、「コンパクトペダルを中心としたボードに組み込む(ボードをコンパクトに保ったうえで)」にはなかなか収まりがよくないのは事実です。サイズを犠牲にできるなら、「マルチの自由さ、拡張性」と「コンパクトの調節しやすさ、手軽さ」を両立できるいい選択肢になりますけどね。

 

②コンパクトとマルチ、どのように折り合いをつけるか?

 

 ここまで見てきたように、近年はコンパクトペダルで組んだボードではなかなか実現できないシステムを組むことができるデジタルマルチがかなり存在感を増しています。サウンドの差についても余程突きつめない限りは必要十分なレベルまで到達していますし、インスピレーションを刺激されるオリジナルモデルを搭載したマルチも多いです。コンパクトペダルをたくさん使う意味が薄まっているように感じる方も多いのではないでしょうか。

 しかし個人的には、マルチは魔法が起きづらいガジェットだと感じています。あらゆるパラメータに手が届くために、出音のクオリティは良くも悪くもその人の関心の深さ、耳に依存する部分が大きくなってきてしまうからです。これはnotaさん(▲▼エフェクターレビューとメモ▲▼)がおっしゃっていたのに影響されているのですが、コンパクトペダルの価値はコントロールできない部分、わたしたちアマチュアとは比べ物にならないほど造詣の深いビルダーによるチューニングにこそあると感じていて、アンタッチャブルな部分があるからこそ、またよくわからずにツマミをただ回していることでこそ起こる魔法というものがあると思っています。(これも耳次第、と言ってしまえばそれまでなのですが)

 ただ、ひとつのコンパクトペダルでは追い込めない部分があるのもまた事実です。「イメージした音を高い解像度で実現する」上ではマルチは非常に強力です。「これくらいの速さのモジュレーションがこれくらいの深さでかかっていて、これくらいの大きさで何回くらい返ってくるディレイが欲しい、ウェットのハイとローはこれくらいカットされていて…」というように音を抽象化して捉えることができるなら、HX Effectsに限らず最新のデジタルマルチはそれを叶えるこれ以上ない味方になってくれることでしょう。

 そこから、コンパクトペダルとマルチエフェクターとは決してお互いを食い合う者同士ではないのではないかと感じています。そして多少飛躍しますが、多機能コンパクトペダル以上に「コントロールの少ない、ビルダーの腕勝負」なペダルの需要が高まっていくのではないかとも思っています。笑 それぞれの持っている武器を把握したうえで、うまく付き合っていきたいものですね…

 

③音作り、どこまでやる?(まとめ)

 

 最後になかなか刺激的な見出しをつけてしまいましたが…笑

 言ってしまえば、HXのモデリングよりも好きな音のコンパクトペダルは山ほどあります。わたしはBOSSのディレイじゃないと興奮できないカラダになってしまっていますし、ピッチシフターもBOSSのものをよく使いますし、Digitechのフェイザーが大好きです。「自分にしか出せない、最高の音」を突き詰める手段としては、HX Effectsは必ずしも優れていないかもしれません。

 しかし、そこまでやる必要があるのでしょうか?もちろんそれを探る遊びはとても楽しいですし、そんな人たちの出す音の中には有無を言わさぬ威厳があるものですが、それと同じくらい、或いはそれ以上に私が大切にしていることが「その場面に適切な音を作れること」です。「どの系統のエフェクトがかかっていて、他のパートとの音量のバランスはどのようになっていて、どの帯域がどれくらい出ているか」をキチンと捉えられていることを何よりも重視しています。例えばRATの音が欲しい時、わたしは「RATというエフェクターを特徴づける要素」が現れてさえくれればあとのディティールは割とどっちでもいいな、くらいのスタンスなんですよね。この記事において各モデリングサウンドに関する言及がほぼ無いのもそこに起因しています。笑

 そんなスタンスに共感を覚える方には特に、HX Effectsを両手で推したいと思います。HX Effectsはノットフォーミーだな、も含めて、参考にできる方がいらっしゃれば嬉しいです。

 

それではまた。