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音楽、機材、サカナクションの話

長谷川白紙「山が見える」リズム解析~異なるBPMの同期~

こんにちは。こんばんは。おはようございます。

 そういえば今年はまだ記事を書いていませんでしたね。時間に余裕があれば手持ち機材の記事なんか書きたいんですが…

 今回はずっとよくわからないまま聴いていた長谷川白紙の「山が見える」のリズムを解き明かすことができてしまったので、半分メモ代わりに記事にしておきます。

[追記] 知人がこれを読んで彼なりにコピーしたところかなり違う結果になったので、参考までに。笑 あまりにも辻褄が合ってしまったので盛り上がって書いた記事ということで…

 

【まずは曲を聴こう】

www.youtube.com

 

 こちらが今回のテーマとなる楽曲、「山が見える」です。リズムにあまり執着のない人の中には意識して聴かなければ引っかからない人もいそうな曲ですが、実はキモ…としか言えないような複雑なリズムを持っています。

 イントロから1バース目までを聴いて、「①ライドシンバル、ハイハットの一部、歌、リードシンセ」と「②キック、スネア、ベース、パッドシンセ」で違うリズムを刻んでいることに気づいたでしょうか?前者についてはなんてことのないシャッフルのリズムですが、後者についてパッとこういう解釈だ!と言うことはほとんどできないと思います。なぜなら、「前者と後者のふたつのリズムは異なるテンポを基準にしている」からです。もっと言うと、「240BPMの16拍分と225BPMの15拍分が同じ長さである」ことに目をつけています。は?

 

【本当にそうなのか?】

 さて、それではちょっとした計算をしてみましょう。240BPMにおいて1拍は250ms(ミリ秒)ですよね。16拍とると長さは4000ms、つまり4秒です。では225BPMではどうでしょう?225:240=15:16から、4000(ms)に16/15をかけてあげると4266.6666.....となり答えが出せません。しかし、今回は16拍分ではなく15拍ぶんでしたよね?

 つまり「4000(ms、120BPMにおける16拍分の長さ)×16/15(BPMを225に変換)×15/16(16拍を15拍に)=4000(ms)」となり、「225BPMの15拍」は「240BPMの16拍」と同じ長さであることが確かめられました。やったね!

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実際にDAW上に4秒分のクリップを異なるBPMで並べてみてもこのようになっています。


【2つのリズムをそれぞれ見よう】

①ライドシンバル、ハイハットの一部、歌、リードシンセ と ②キック、スネア、ベース、パッドシンセ

 まず①について。①は240BPMで8分のシャッフルになっており、楽曲全体もこちらに準じて構成されています。ハイハットとライドが合わさってわかりやすいビートを刻んでいますね。

 

②キック、スネア、ベース、パッドシンセ

 次に②について。こちらは4分6連(8分3連?)のグリッドをベースに、キックとスネアが6:5でグリッド11個分をひとまとまりとするリズムを刻んでいて、大枠は「グリッド11個単位のフレーズを8回繰り返す(11×8=88個分)+225BPMにおいて15拍を満たすまでの余白の部分(15拍分はグリッド90個分なので90-88=2個分)」でひとまとまりになっています。

 しかし、注意すべきは②において8回目のスネアの位置だけが少し後ろにズレていることで、この8回目のスネアは「①における16拍目(①においてスネアが入ることが自然に感じる位置)」になっています。

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画像の上から1段目(この項の1段落目の内容)と2段目(2段落目の内容)が合わさった3段目が②のリズムを示すものです。

ここまでの内容を軽く動画にまとめてみました。わかりやすさを優先してシャッフルのビートはハイハットのみで打ち込みましたが、原曲のムードが出ているのがわかると思います。

 

【話はここで終わらない】

ここまで示した①、②のリズムの分け方はあくまでこの楽曲の基本形であり、一定ではありません。例えば1:09「頂上も~」の部分では全てのパートが①に準じています。また、2:47「ふかくみつめて~」では歌が②に沿うようになりその後の「編み出す妃へ」の「妃へ」でまた①に戻る、といったように、いくつかのパートはふたつのリズムを横断しながら楽曲が進んでいきます。

 ここまでなるべく言わないように我慢してきましたがそろそろ言ってしまっていいでしょう、

めちゃくちゃにキモいね!!!!!!!!!!!!

 

【まとめ】

 以上見てきた通りこの楽曲は大変奇妙なリズムを持つ曲なのですが、何より怖いのは、それでいて一聴してとっつきづらい印象を受けることなくサラッと聴けてしまうことではないでしょうか。月並みですが流石大天才と言いたくなってしまいます。

 これまでリズムに対する関心はそれなりに高いつもりでしたが、(スウィングという曖昧なものを除けば)せいぜい変拍子ポリリズムシンコペーションを組み合わせるのが関の山でした。かっちりとグリッドに嵌めて説明できそれでいて奇妙なリズム、自分でも色々考えて作ってみたいものですね…。

それではまた次の記事で!